基礎デザイン学科

science of design

昇果
松尾美果

美味しそうに撮られた果実の写真は世に溢れるほどある。作者は目の前の豊かに実った果実を趣くままに刃をいれる。あたかも実を切ることで内に秘めたかたちを見つけ出すかのように。皮を剥かれ果肉を削がれ種を取られて瞬く間に表情は変わっていく。そのひとときを楽しむかのように写真に収める。そこには今までみたことのない果実の姿が鮮やかに現れる。ひとつひとつの果実は生き生きとして貴石のようで無駄がなく美しい。
(担当教員 野口正治)

金魚
加藤 美帆

加藤美帆は金魚を極限まで簡潔に表現し、美しいグラフィックデザインを生み出した。金魚は人間が種の交配によって作り出した観賞魚で、目の大きさ、模様、ひれの形など、目指す特徴を強調する方向に進化させられてきた生物である。金魚の特徴を単純化することで、それぞれの金魚に対して人間が見立てた理想が浮かび上がってくる。
日本の伝統美を現代的に捉えた作品としても優れているが、動画として表現された際にも、描かれていない身体部位が、魚体の重なりのなかに現れてくるところに見応えがあり、思わず引き込まれる。
(担当教員 原研哉)

樹球
池田頼果

いつもの見慣れた風景のなかにある木々。長い時を経てさまざまに変化していく樹の幹を子細に観察する。作者は成長しながら肥大化していく樹皮の表情に心を惹かれた。そこにはそれぞれの樹体を守ってきた無数の証が刻まれていると言う。変容した樹皮を子細に観察しその姿を球に見立てたキャンバスへ克明に映し取る。それはあたかも空間に浮遊する樹々の惑星のように見える。あらたな生命を宿したように不思議な感覚を覚える作品だ。
(担当教員 野口正治)



文字から見えてくる風景 〜コンクリートポエトリー×身体〜
柏村さくら

新國誠一のコンクリートポエトリー6篇を、身の丈をこえる本に仕立てた舞台で行われる舞踏。漢字が整然と連なった硬質な印象をもつ詩の「静」、顔から腕にかけてドーランを塗り、やわらく肢体をくねらせておどる緩急の激しい「動」。そのつよい対比は、一冊の詩集の真っ白な見開き頁に黒い活字がぎっしりと配列された静寂な空間にいのちが吹きこまれていくようで、あるいは詩の行間をよぎる精霊のようで、強く胸に迫ってくるのだ。
(担当教員 板東孝明)

Typeface of 1min.
髙室 湧人

髙室湧人は、「1分」という時間を表現する時計的なモーション・グラフィックスを追いかけていた。ある時、文字を回転させ、それによって「1分」が表現できることに気づいた。「時計」という表現から離れることで、むしろ時間に出会うことができたのである。高室がデザインした「1分」は、一秒ごとに薄くなっていく文字の形の積層によって、一秒一秒が過去化していく風景となっている点が秀逸である。世界が一秒ごとに過去になっていく光景には不思議な無常観が漂ってさえいる。時間あるいは過去が描写されつつ、同時に「言葉」として放たれるメッセージはとても詩的である。
(担当教員 原研哉)